この分野の字幕は、ひとつの業界がひとつの基準で作っているものではありません。いくつもの別々の制作経路から出てきていて、品質を決めているのはその経路です。メーカーでも、発売年でも、見ているファイルの解像度でもありません。

自然に読める字幕と、崩れた書き起こしにしか見えない字幕の差は、たいてい努力の量の差ではありません。音声のどれだけを実際に書き起こし、どれだけを推測で埋めたかの差であり、出来上がりを突き合わせる台本が手元にあったかどうかの差です。

制作の経路には実際どんなものがあるのか?

5つあり、何から出発するかが違います。

配信元が用意した字幕は、正規のリリースの一部として作られます。作った人は完成マスターにアクセスでき、制作資料まで見られることも多くあります。決定的なのは、その特定のバージョンに合わせてタイミングが取られていることです。

日本語字幕データから起こした字幕は、同言語の日本語字幕トラック——すでに文字になり、区切られ、時間も合っているもの——から出発して、それを翻訳します。音声を聞き取るという難所は他人がすでに片づけてくれているので、残る作業は翻訳だけです。

人が耳で訳したものは、台本なしで音声だけを頼りに訳者が作業したものです。優れた出来になりうる一方、時間がかかり、音声そのものが抱える問題をそのまま引き受けます。

音声認識+機械翻訳は、音声に対して音声認識をかけ、出てきたテキストを翻訳します。それぞれ固有の誤り方をする自動処理を2段、直列につないだものです。

重訳は、既存の翻訳——たいていは英語——を取ってきて、それを第三の言語に訳します。中間バージョンの誤りはすべて温存され、そのうえで上乗せされます。

どの経路が、どんな壊れ方をするのか?

経路ごとに特有の壊れ方があり、何を見ればいいか分かっていれば画面上で見分けられます。

制作経路 タイミングの精度 意味の精度 見分けの手がかり
配信元が用意 その版に合っている 訳者によって変わる 改行が一貫している、画面内の文字や看板にも字幕が付く
日本語字幕データから 元の字幕トラック譲り——おおむね良好 台詞は良いが慣用表現に弱い 区切りが自然だが、言葉以外の音には字幕が付かない
人が耳で 台詞が明瞭なら良好、密なところでズレる ニュアンスでは最良 訳注がときどき入る、場面ごとに密度が不揃い
音声認識+機械翻訳 発話の立ち上がりには正確だが、無発話部にも行が出る 流暢だが、ところどころ自信を持って間違える 一律に短い行、雑音の上に存在しない台詞
重訳 元のトラック譲り 経由するたびに劣化する 元の言語に訳し戻して初めて意味の通る妙な語選び

意外に思われるのが音声認識の行です。タイミングは波形から直接得ているので、人間より良いことすらよくあります。一方で意味の精度は5つの中で最も当てになりません。この工程のどこにも、自分が推測したことを知る仕組みがないからです。

なぜこの素材は、普通の映画より字幕を付けにくいのか?

字幕作業を成立させる条件が、ほとんど何ひとつ揃っていないからです。

台本のあるドラマなら、字幕制作者には書かれた台本があり、台詞はきれいに録られ、話者はひとりずつで、代名詞のあいまいさを解いてくれる物語の文脈があります。AVはそのどれも用意しないのが普通です。

  • 台詞にはほとんど台本がない。 書き起こしを突き合わせる文書が存在しないので、誤りがぶつかる相手もありません。
  • 発話が激しく重なるうえ、2人が同時に話すと音声認識は急激に精度を落とします。
  • 音声のかなりの部分が言葉ではない。 息づかい、声、環境音が時間を占め、音声認識はしばしばそこを言葉で埋めようとします。
  • 収録条件が一定しない。 とくに手持ちやマイク1本の構成では、音声と雑音の比が悪いことが多くなります。
  • 日本語は主語も代名詞も落とす。 日本語としては何のあいまいさもない台詞が、誰に向けた話か、誰についての話かを含んでいないことがあり、訳者は原文になかった代名詞を補うしかありません。
  • 敬語は関係性の情報を運ぶのに、英語にはそれを入れる場所がありません。日本語話者なら即座に聞き取れる語調の変化は、誰かが意識的に組み直さないかぎり訳文から消えます。
  • 固有名詞やレーベル名は一般語彙の外にあり、音の似た普通の単語に化けるのが日常茶飯事です。

これは作業に当たっている人たちへの批判ではありません。入力そのものが本当に難しい、という記述です。

自分が見ているのがどの種類か、どう見分けるのか?

日本語がまったく分からなくても使える手がかりで、たいてい数分のうちに制作経路の見当がつきます。

観察されること そこから分かること
進行につれてタイミングが徐々に遅れる/早まる 別の版かフレームレートに合わせて時間が取られたトラック
どの行もだいたい同じ短さ 人の手による改行ではなく自動の区切り
同じ人物の代名詞の性別が行ごとに変わる 落ちた主語を翻訳段階が推測している
慣用表現が一語ずつ字義どおりに訳されている 機械翻訳、あるいは第三言語を経由した重訳
発話のない部分に行が出る 音声認識が雑音をもっともらしい語で埋めている
重なった台詞が1行に潰れている 書き起こしが主たる話者だけを残した
画面内の文字や看板にも字幕が付く 誰かが完成した映像を見ながら意図的に作業した
名前の表記が最後まで統一されている 人がファイル全体に少なくとも一度は目を通した

いちばん診断に使えるのが、徐々にズレていく現象です。これは再生しているファイルにタイミングが一度も合わせられていない——トラックはよそから来た——という意味です。プレイヤーの字幕遅延の調整で一定のずれは打ち消せますが、進むほど広がるズレはフレームレートの不一致を示しており、それはトラック側の性質で、オフセットをいじって直せるものではありません。

では実際どうすればいいのか?

最初の数分でそのトラックを見極め、その判断をファイル全体についての情報として扱ってください。

字幕の品質が後半で良くなることはありません。冒頭の場面で名前の表記が揺れ、代名詞が入れ替わっているなら、最後までそうですし、それは自動処理の出力を見ているということです。何が起きているかを追うぶんには問題ありませんが、台詞の正確な意味に懸かる用途には当てになりません。

構造として唯一保証があるのはここです。いま見ている版に合わせてタイミングが取られていると保証されるのは、正規のリリースに付属する字幕だけです。 それ以外はすべて、その素材のどれかのバージョンに向けて作られたトラックを、たぶん合うだろうという前提で自分の手元の複製に当てているにすぎません。その前提こそがズレの出どころであり、翻訳自体はまともなのに字幕の体験が壊れて感じられる、その最大の単一原因です。

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字幕が用意されているかどうかはプラットフォームによって大きく異なります。当サイトが索引しているサイトと、そこに何があるかはサイト一覧でご覧ください。